保育士・・・
近年、少子高齢化で、人手不足に悩まされる現代社会において、特に人材が不足している業種として挙げられる中、国家資格「保育士資格」が必須とされ、資格取得についても決して簡単ではない。
また、その業務内容についても時代の変化と共に、求められる役割の幅が広がっている。
一体、現在の保育士の方は、普段何を考え、どのような想いで業務に携わっているのだろう。
そして、その組織のトップである園長先生は、従業員に対してどのような想いを抱いているのだろう。
今回、私は大阪府寝屋川市にある幼保連携型認定こども園の『エールこども園』に取材をさせていただき、そこで従事する先生方に様々なお話を聞かせていただきました。
・「保育士」という仕事に対する想い
・職場の雰囲気や、福利厚生の魅力
・ひとりの人間としての、これから
この記事を通じて、保育士の現場に対する想いや、等身大の意見などが伝われば幸いです。
(取材・文/上田智也)

「否定しない」から始まった園づくり
「“園長先生”はあだ名です!」
そう明るく答えてくれたのは、大阪府寝屋川市にある幼保連携型認定こども園
『エールこども園』で3代目の園長を務める佐藤さん。

佐藤さんも、元々はいち教員であり、これまで複数の保育園(幼稚園)でキャリアを積み、2017年に同園の園長に就任しました。
そもそも『エールこども園』は、はじめからこの場所に存在していた園ではありません。
元々この土地には、市立の幼稚園があり、寝屋川市立の幼稚園と保育所が民営化を機に統合された背景があります。
その後、エールこども園の母体である社会福祉法人「種の会」が運営を担う形となり、幼保連携型認定こども園として新たにスタートした施設が、現在の『エールこども園』です。
つまり、佐藤さんが園長に就任した直後は、
『エールこども園』という1つの組織に
・保育所
・幼稚園
・種の会
という、3つの異なる考え方が存在しておりました。
佐藤さんは、当時の思い出をこう語ってくれました。
「それぞれのコミュニティが持つ考え方は実に正しい内容で、当然意見が対立する事もありました。
ただ、私の出した結論は、自分と異なる考え方を否定するのではなく、まずは共感して、
3つの組織の良い部分だけを取り入れ、『エールこども園』という新しい組織を作るよう呼びかけを続けました」
この佐藤さんの持つ「否定しない」という姿勢は、組織づくりにおいても、保育にしても一貫した考え方だといいます。

佐藤さんは、3歳から保育士の道に憧れを持ち、そのまま夢を実現しました。
「私は、この仕事が大好きです」と笑顔で語る彼女は、園児に対して教育を行う事はあれ、抑止や否定は行わないといいます。
「私は保育とは、子どもに自主性を持たせる事だと考えます。そのためには、まず共感し、見守り、できない事があれば手を差し伸べてあげ、できたらその成長を認めてあげることが重要です」
結果として、それぞれの立場で大切にしてきた考え方を尊重し合う空気が生まれ、少しずつ『エールこども園』としての方向性が形づくられていきました。
佐藤さんの持つ「否定しない」という姿勢は、子どもに対してだけではなく、共に働く職員に対しても同じだといいます。
みんなで、みんなを、みていく
『エールこども園』の理念として「みんなで、みんなを、みていく」とあります。
ここでいう「みんな」とは、園児と先生だけを指す言葉ではありません。
保護者、地域の方々、そして園で働く職員も含め、それぞれが関わり合いながら、子どもの成長を支えていくという考え方です。
エールこども園では、この理念を実現するための土台として、職員同士が気持ちよく、かつ円滑にコミュニケーションが取れる環境づくりを大切にしています。
その一環として、エールこども園が職員に向けてサポートしている福利厚生の一部をご紹介させていただきます。
●導入事例
・メンター制度
エールこども園では、新しく入職した職員が安心して働けるよう「メンター制度」を取り入れています。(※同園では「メンターメンティー制度」と呼称しております)
メンター制度とは、経験のある先輩職員が相談役となり、新人職員に対して業務の進め方や悩み事について継続的にサポートを行う仕組みです。
エールこども園では、主に入職1年目の職員を対象としており、年齢の近い先輩職員がメンターとして担当します。
年齢が近いことで相談がしやすく、業務上の不安だけでなく、日々のちょっとした悩みも共有しやすい環境づくりを意識しています。
また、メンターと新人職員が食事をしながらコミュニケーションを取る機会も設けられており、その際の食事代についても、一定の上限額の範囲内で園が負担しております。

・エンターテイナー企画
「エンターテイナー企画」は、エールこども園の母体である「種の会」が独自に実施している福利厚生制度です。
この制度は、職員が感性を磨くことを目的としており、音楽や美術などの芸術鑑賞、テーマパークでのエンターテインメント体験など、“心が動く体験”にかかる費用について、1人あたり年間12,000円まで補助を受けることができます。
保育の現場では、子どもの発想や表現に触れる機会が多く、保育者自身の感性も日々の関わり方に影響します。さまざまな表現や体験に触れることで、子どもの感じ方や興味への理解も深まっていきます。
また、使い道の幅が比較的広い点も、この制度の特徴です。音楽ライブ、アート、舞台鑑賞、エンターテインメント体験など、それぞれの関心に合わせて活用できるため、自分らしい形で感性を磨くことができます。

佐藤さんはいいます。
「子どもは笑顔で育ちます。子ども達に笑顔を届けるためには、職員にも心地よく働ける職場環境である必要があります」。
また、佐藤さんも時代とともに変化をするコミュニケーションのあり方を知るために、職員の世代ごとにアンケートを取り、時流に合わせた福利厚生の形を常に模索しています。
さて、このような環境の中で働く先生たちは、日々どのような想いを持ちながら子どもたちと向き合っているのでしょうか。
職員の声(田中先生)

田中先生は、今年で3年目のキャリアを迎える保育士です。
自身の家族も保育士であったことから、幼い頃から保育という仕事を身近に感じて育ちました。
もともと子どもの面倒を見ることが好きだったことに加え、保育士のなり手が少ないという社会的な課題を知ったこともきっかけとなり、中学生の頃から保育士を志すようになったといいます。
その後、彼女は大学で幼児教育を学び、卒業後は新卒として『エールこども園』に入職しました。
職場として「エールこども園」を選んだ理由として、理念である「みんなで、みんなを、みていく」に共感できた点に加え、「なかよしベンチ」をはじめとした、子どもが主体的に関わり合える環境づくりに魅力を感じたことが決め手となったようです。
また、園見学の際にも、園庭の広さや保育環境の工夫から「ここでなら保育士として成長できる」と感じたといいます。
「なかよしベンチ」

エールこども園独自の取り組みのひとつに、「なかよしベンチ」があります。
園児同士が喧嘩をした際に、お互いの気持ちを伝え合うために用意された特注のベンチです。
保育士が少し離れた場所から見守る中、園児同士が一対一で落ち着いて話し合いができるよう設計されており、周囲の視線を気にせず会話に集中できる、半個室のようなデザインになっています。


このように、子ども同士が主体的に関係を築いていくことを大切にしている点に、エールこども園らしさを感じたと田中先生はいいます。
「保育士がすぐに答えを出すのではなく、子ども同士が気持ちを伝え合う時間が用意されていることに魅力を感じました」と話してくれました。
田中先生は、在学中の実習や、ご両親が保育に関わる仕事をしていたことから、ある程度の理解と覚悟を持って現場に入りました。
しかし、それでも想像と現実のギャップはあり、入職当初は苦労も多かったといいます。
「入社後、私は経験豊富な先生のもとで業務に携わりましたが、その先生が不在の時は本当に心配な気持ちになりました」と田中先生は話します。

配属当初、田中さんは「乳児クラス」と呼ばれる、まだ言葉でのコミュニケーションが十分に取れない年齢の保育を担当していました。
保育の現場では、子どもと関わる時間だけでなく、行事の準備や書類業務なども並行して進める必要があり、学生時代に想像していた以上に考えることの多い仕事だと感じたそうです。
その中でも特に難しさを感じたのが、まだ十分に言葉で気持ちを表現することが難しい年齢の子どもに対して、どのように関わり、どのように伝えるかという点でした。
その中で、田中さんは先輩の保育士に相談を行い、また自身でも実務を重ねることで、
「子どもの行動の奥にある気持ちを感じることの重要性」
に気がついたといいます。
もし子どもが叱られるべき行動をした時でも、すぐに注意をするのではなく、
「どうしてそんなことをしたの?」と優しく声をかけたり、周囲の状況を観察しながら、その行動の背景にある理由を考えるようにしているそうです。
そのうえで、何かを伝える時や、時には叱る場面においても、子どもと同じ目線に立ち、相手に伝わるよう言葉を選びながら関わることを意識しています。
もちろん、すべてがうまくいくわけではありませんが、その難しさや、少しずつ関係性が築かれていく実感こそが、保育士としてのやりがいにつながっていると田中先生はいいます。
また、田中さんは保育士として日々を送る中で、
「子どもが持つ表現の豊かさ」に感動することもあったといいます。
「園庭で木の近くで遊ぶ子どもがいて、落ちてくる葉を見ながら
“せんせい見て、葉っぱの雨が振っているよ!”
と言ってくれました。大人では考えつかない表現で、私の感性も育まれる素敵な出来事でした」
子どもの数だけコミュニケーションの方法が異なり、またその接し方にも正解がなく、難しい仕事ではありますが、日々の出来事を通して、自身の感性が磨かれたり、物事への気づきが得られる点こそが、保育士という仕事の面白さと、田中さんはいいます。

さらに、エールこども園では、外部研修などの学びの機会も用意されており、造形など表現に関する研修を通じて、新たな視点を得ることもできているそうです。
日々の保育だけでなく、自分自身の成長を見つめ直す機会があることも、この職場で働く魅力のひとつだと感じているといいます。
また、同園では、有給休暇も取得しやすく、職員同士で協力しながら業務を進める風土があることから、無理なく働き続けることができている点も安心材料になっているそうです。
最後に、今後の展望について田中さんに伺うと、保育士という仕事に誇りを持ちながら日々を積み重ねる中で、将来的には保育園で培った感性や創造力を、さまざまな形で活かしていきたいという想いもあるようでした。
まずは保育士としての経験を積み重ねながら、子ども一人ひとりに寄り添える保育者として成長していきたいと語ってくれました。
職員の声(宮先生)

宮さんは、今年で4年目のキャリアを迎える保育士です。
幼い頃から幼稚園の先生に憧れを抱いており、小学生の頃にはすでに保育の仕事を将来の夢として思い描いていたといいます。
特に自身が通っていた園で出会った先生の存在が大きく、「子ども一人ひとりに向き合う姿に憧れを持ったことが、保育士を目指すきっかけになりました」と話してくれました。
大学では幼児教育を専攻し、教職課程を履修する中で、保育の現場における人手不足という社会課題にも触れ、自身もその役割を担いたいと考えるようになったそうです。
また、将来自身が家庭を持った後も長く働き続けられる仕事として考えた際に、保育士という職業の魅力を改めて感じたといいます。
『エールこども園』との出会いは、大学時代にアルバイトとして関わったことがきっかけでした。
大学の先生からの紹介もあり、実際に現場を経験する中で職場の雰囲気の良さや、職員同士が協力しながら保育を行う姿に魅力を感じたそうです。
アルバイトとして同園に関わる中で園の考え方に触れる機会が多く、自然な形で環境に順応することができたことも、入職の決め手のひとつになったといいます。

現在、宮さんは4歳児クラスを担当しています。
4歳児は、自分の気持ちを表現できるようになる一方で、感情のコントロールが難しい時期でもあり、関わり方に悩むことも少なくないといいます。
子どもとの関係づくりにおいては「正解がひとつではない」と感じる場面も多く、日々試行錯誤を重ねながら向き合っているそうです。
そのような中で宮さんが仕事で大切にしているのが、「表情で気持ちを伝えること」です。
子どもは大人の表情をよく見ており、同じ言葉であっても、笑顔で伝えるかどうかによって反応が変わると感じているといいます。
「子どもだけでなく、保護者の方とも笑顔で関わることを意識しています。自分自身が穏やかな表情でいることで、安心してもらえると感じています」と宮さんは話します。

保育の現場では、子どもへの関わりだけでなく、書類作成などの業務も必要となり、決して簡単な仕事ではありません。
それでも、周囲の先生方が声をかけてくれたり、困ったときには手を止めて相談に乗ってくれる環境があることで、不安を感じた際にも前向きに取り組むことができているそうです。
実際に、エールこども園では職員同士のコミュニケーションが活発であり、経験年数に関係なく相談しやすい雰囲気があることも特徴のひとつです。
ベテランの先生にも気軽に相談できる環境があることで、日々の保育の中で多くの学びを得ることができているといいます。
また、エールこども園では、メンター制度を通じて年齢の近い先輩職員が相談役となる仕組みがあり、定期的にコミュニケーションを取る機会が設けられています。
業務の相談だけでなく、日常的な悩みについても話しやすい環境があることで、安心して仕事に向き合うことができているそうです。
さらに、宮さんは福利厚生の一環である「エンターテイナー企画」も同園の魅力のひとつだといいます。
実際、彼女はこのエンターテイナー企画を活用し、自身が好きなアーティストのライブツアーに参加するなど、実際に制度を活用しているそうです。
「私は、ライブや舞台を観ることが好きなので、そうした体験に制度を活用できる点は嬉しいです。感性を磨くことが、保育の現場での発想にもつながっていると感じています」と話してくれました。

保育という仕事のやりがいについて宮さんは、子どもや保護者との関わりの中で得られる言葉が大きな支えになっているといいます。
特に印象に残っている出来事として、これまで関わった子どもと保護者から手紙をもらった経験を挙げてくれました。
卒園生から「大好きです」という言葉が書かれた手紙を受け取ったとき、自分の関わりが誰かの心に残っていることを実感し、大きなやりがいを感じたそうです。
また、卒園した子どもが成長した姿を見せに来てくれることもあり、子どもの成長を継続して感じられる点も、この仕事ならではの魅力だといいます。
「子どもの成長を間近で感じられるのは本来であれば保護者の特権だと思いますが、その大切な時間に関われることに、この仕事の価値を感じています」と語ってくれました。
職場の雰囲気についても、助け合いながら仕事を進めていく文化があり、周囲の先生方に支えられていると感じる場面が多いそうです。
子どもと全力で向き合う姿勢を大切にしながら、自身も成長を続けていきたいと考えています。
将来的には、ライフステージの変化も見据えながら、自分らしい働き方についても考えていきたいとしつつ、まずは保育士として経験を積み重ねていきたいと話してくれました。
「子どもが好きという気持ちを大切にしながら、一つひとつの経験を大事にしていきたいと思っています」と、今後の目標について語ってくれました。
取材を通して見えてきた「リアル」
一般的に保育士という仕事には、「大変」や「長時間労働が多い」といったイメージがつきまとうことも少なくありません。
実際に、人手不足が社会的な課題として語られる中で、現場では業務量の多さや責任の重さから、職員が疲弊しているという印象を持つ方も多いのではないでしょうか。
私は、そのような前提を持って今回お二人にお話を伺ったこともあり、田中先生と宮先生の言葉からは、良い意味で印象とのギャップを感じる部分がありました。
お二人ともエールこども園が初めての職場でありながら、それぞれが試行錯誤を重ねつつも、周囲の職員と相談しながら前向きに経験を積み重ねている様子がうかがえました。
特に印象的だったのは、保育士という仕事に対して強い責任感やこだわりを持ちながらも、過度に無理をしている様子が感じられなかった点です。
勤務時間がシフト制で区切られていることもあり、ライフワークバランスが一定程度保たれていることが、結果として仕事への向き合い方にも影響しているように感じられました。
また園長先生のお話からは、メンター制度やエンターテイナー企画など、保育士自身の成長や感性を支える仕組みが意図的に設計されていることも分かりました。

人手不足という現実がある中でも、離職率の低下を見据えた取り組みが行われている点については、率直に興味深い部分でもありました。
田中先生と宮先生、それぞれの話に共通していたのは、子どもに向き合う姿勢と同時に、自身の在り方についても考え続けている点でした。
保育の質は職場環境によって支えられる側面もあるということを、今回の取材を通じて改めて感じました。
こうした環境や考え方は、どのような想いから生まれているのでしょうか。最後に、園長先生に今後の展望についてお話を伺いました。
佐藤園長先生からのメッセージ

私はエールこども園の園長という立場ではありますが、自分のことを偉い存在だとは思っていません。
職員と同じように、日々子どもたちの成長を楽しみにしながら保育に関わっています。
私は保育士という仕事が大好きで、天職だと感じています。
子どもは、笑顔の中で育っていくものだと思います。
そして子どもが笑顔で過ごすためには、保育士である職員も笑顔でいられる環境であることが大切だと考えています。
現在、保育業界では人手不足が課題として挙げられることも多く、なり手が少ない職種と言われることもあります。
しかし、当園のようにライフワークバランスを大切にしながら、それぞれの職員が持ち味を活かし、高いモチベーションで働ける環境づくりに取り組んでいる園も、きっと他にもあると思っています。
自分らしく働ける環境や、特技を活かせる職場を探している方にとって、
保育士という仕事も選択肢のひとつになるのではないかと思います。
(佐藤園長)
【会社概要】
幼保連携型認定こども園の『エールこども園』:https://tanenokai.ed.jp/yell/
Instagram:https://www.instagram.com/yellkodomoen/
TEL:072-828-5733,社会福祉法人 種の会:https://tanenokai.ed.jp/

